背伸びして、君とありったけのキスがしたい。
02:恋人のフリ、だけど
***
「里緒、帰ろー!今日もあたしの家で一緒に宿題するでしょ?」
「でも綺良ちゃん、今日トイレ掃除の当番になってるよ?」
「……ゲッ、最悪。忘れてた」
「私待ってるから、慌てないでいいよ」
帰りのHRが終わって、放課後になると一気に教室は騒がしくなる。
私はスクールカバンに教科書を詰め込みながら、ふと頭によぎった人のことを考えていた。
……ううん、あれから毎日のように彼のことを考えてしまっている。
「(綾人さん、今なにしてるんだろう)」
はじめて大人の世界に足を踏み入れて、私の人生の中で最悪だった日に出会った人。
知らない男の人たちに連れ去られそうになったところを助けてくれて、話を聞いてくれて、優しく頭を撫でてくれた人。
あの日からもう、一週間が経っていた。
電話番号やメッセージアプリのIDを聞きそびれたせいで、あれから一度も綾人さんには会えていない。
綺良ちゃんに綾人さんがどこにいるのか聞いてみても、なかなか情報は得られなかった。
でも、高瀬綾人という人がどんな人なのかは教えてもらうことができた。
『あぁ、高瀬綾人でしょ?あんまりいい噂は聞かないかなぁ』
『クラブとかバーを何店舗も経営していて、夜の街の支配者ってイメージが強いかも。相当なお金持ちだって聞くし』
『でも自分のお店なのに滅多に顔は出さないらしいし、普段からどこで何をしてるのかみんな知らないんだって』
『あと、絶対に特定の彼女を作らないって有名らしいよ』