背伸びして、君とありったけのキスがしたい。
どうしてそんな考え方になるの?
あの日から私が、一体どんな気持ちで過ごしていると思っているの?
「(なにも、知らないと思って……っ)」
けれど、橋本くんの声はこの場に残っていた人たちの耳にも届いていたようで、顔をあげてあたりを見渡してみると、まるで私が悪者のような雰囲気が漂っていた。
「え、なになに修羅場?」
「中畑さんが浮気?したらしいよ」
「えー、嘘でしょ!?あの橋本くんと付き合ってるのに?」
違う、私は何もしていない。
私は、何も──……。
周りからの突き刺さるような鋭い視線が、怖くてたまらない。
ギュッと目を瞑って、一刻も早く綺良ちゃんが戻ってきてくれることだけを願った。
「──あ、里緒ちゃん発見」
そのとき、教室の扉が勢いよく開く音がした。
それと同時に私の名前を呼んだその声は、待ち望んでいた綺良ちゃんのものではなかった。