背伸びして、君とありったけのキスがしたい。
綾人さんのことはなんでも知りたいはずなのに、今はこれ以上聞いていたくなかった。
彼の過去を聞いて受け止めるだけの準備が、まだできていないから?
それとも、今はまだ聞くべきタイミングではないから?
だけど、どっちでもいい。過去は過去だ。
私は今の綾人さんと出会って、今の彼を好きになったんだから。
「心配してくれてありがとう、橋本くん」
「あ、いや」
「でも私、今のところ綾人さんに何もひどいことはされてないんだ」
「……」
「むしろ良い思い出しかないから、だから大丈夫だよ」
私は自分の目で見たものだけを信じたい。
綾人さんは自分でさえ『俺はそんなに良い大人じゃない』と言っていた。
だけど私は実際にそんな綾人さんに何度も助けられて、救われてきている。
今はその事実だけで、十分だ。
「綺良ちゃんが待ってるから、私もう行くね」
「あ、待って里緒!俺とまた……話してくれる?」
「……」
「俺、里緒にちゃんと償いたいっていうか」
「友達でいよう、橋本くん」
「……いいの?」
「もちろん。同じクラスだし、これからたくさん行事もあるでしょ?一緒に盛り上げていこうね」
それだけ言って、私は早足に綺良ちゃんの元へ戻った。
こうして前向きな気持ちになれたのも、全部綾人さんのおかげだ。
私は綾人さんが好き。
「(好きって気持ちは、すごいな)」
今、なんだか無性に彼に会いたくなった。