隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「お忙しいところ申し訳ありません、マートン様。 北出身らしい親子がいま門前に来ているのですがまったくこの国の言葉を知らない様子で……北の言葉をご存知の方がマートン様しかいらっしゃらないのです。 恐縮ですが、少しだけ来ていただけないでしょうか」

「城付きの通訳はどうした」

「西の方へ帰省しています。帰国は明後日の予定です」


 マートンはため息をついて、私を見た。


「エミリア様。私が帰るまでここで大人しくしていてくださいね。もしお体に不調があればすぐに係の者を呼んでください」

「わかった。私は大丈夫だからはやく行ってあげて」


 マートンはまだなにか言いたそうな顔を残して、急かしてくる門番とともに重たい扉の先へと姿を消した。

 私はマートンに言われた通り、壁沿いに置かれた椅子に大人しく腰かける。

 手には先ほどマートンが持ってきてくれたお皿にのるベリーがあって、暇つぶしにそれをコロコロと転がしてみる。


 ……自分でも驚いた。

 美味しいものを食べているときが人生で最も至福な時間であるはずの私が、食欲をなくすことがあるなんて。

 マートンの言うように、なにか毒を体に入れてしまったのかしら……

 そうは言っても寝込みたくなるような具合の悪さではないし、食べる気がしないだけで、まったく食べられない訳でもない。

 せっかく持ってきてくれたベリーを残すのはもったいないと、おもむろに一粒を口に入れた。



 ……その時。

 すぐ横に、『彼』が立っていた。



「……!!」


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