隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
しっとりしたワルツが流れ始める中、ダンスのお相手を探すのに夢中な人々に紛れ、私たちは重たい宮殿の扉を開けて廊下に出た。
一気に喧騒が遠のいた暗い廊下には、大きな窓から柔らかい月明かりが漏れて、静かに私たちの足音を浸透させる。
前を行く彼は特に言葉を発することなく、規則的なリズムで足を前へ前へと運んでいく。
私はその後ろをただついて歩いていきながら、思ったより背の高い彼のたくましい背中にときめかずにいられない。
大変なことになっている心臓を、どうにか落ち着かせようと胸を押さえた。
……そういえば大人しくしてろと言われたのに、うっかりついてきてしまった。
マートンにバレたらまたひどく叱られそう。
それでも来た道を引き返す気にはなれない。
この後、どうなってしまう……?
よくあるロマンスの話だったら、そう、月が綺麗に見えるバルコニーに出て、二人向き合ってお互いのことを語り合って……
そうだ、フォルモンド家のお連れ様とは聞いたけど、まだ彼の名前も聞いてない。
東の国ってどんなところなんだろう。
歳は? 兄弟は? 好きな食べ物は?
ああ、私、ちゃんと目を見て話せるのかな……
ロマンチックなムードの中で彼と向き合うところを想像してまた胸の音がドクドクと速くなった。