隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
 酒々井はため息をついて、俺の前にしゃがんだ。


「ひまりが見てたから」

「は……?」


 なおさら意味が分からない。


「なんで負けようと思うんだよ、普通逆だろ」


 ムカつく。 ムカつく、ムカつく。

 いくら俺がサッカー部でも、お前に勝っても、越谷を好きだと思っていても。

 越谷の気持ちはお前にあるのに。


「お前も越谷が好きなんだろ……?」


 そこで、酒々井が泣きそうな顔で笑った。

 さっきまで俺をおちょくって遊んでたやつの表情とは思えなくてドキッとする。


「ハッピーエンドには、まともな王子さまが必要でしょ」


 酒々井がなにを言いたいのか、はっきりとは分からなかった。


「だからもっとしっかりしてね。 王子様」


 それでも、酒々井はどうしても俺に勝って欲しいんだということはわかった。

 酒々井は、自分に向いてる越谷の視線を俺に向けたいんだ。

 また腹が立って、俺は拳を握りしめた。


「俺が越谷と付き合っても、お前は後悔しないってこと?」

「後悔?」


 酒々井がハハッと乾いた笑いを漏らした。


「そんなもんとっくの昔にし終わってんだわ」


 酒々井はそう言って、また泣きそうな顔で笑った。
 




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