隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「エミリア様は、つい先日まで国王様の隠し子でございました」

「……! 隠し子?」

「ある平民の女性がエミリア様を連れて、国王様の子であると突然訪ねてこられました。 自分はもうすぐ病で死ぬからこの子を預かって欲しいとやってきたのです。 その女性は国王様が今の女王様とご婚約される前に愛し合われていたお方でした。 国王様は快諾して、エミリア様を第二王女としてこの城に置くことにして今に至ります」

「……そりゃあ歓迎されないだろうね」

「ええ。 女王様はもちろん、この城の中にいる大半の女性はエミリア様の存在を疎ましく思ってらっしゃって、過去に何度も殺されそうになりました」


 『何の苦労もなさそう』なんて少し悪かったかもしれないと思っていると、当の本人は蝶々を追いかけた拍子に転んで、慌てる召使いに向かってふにゃ、と笑ってみせている。

 その笑顔はなんの邪気も感じられなくて、兄のルーカスを思い出させた。


「あなたには、あくまで〝影〟となってエミリア様をお守りいただきたいと思っております」

「影?」

「エミリア様にも、お屋敷の方々にも存在を知られてはいけません。 あくまで暗躍すること」

「なんで」

「色々と都合がいいからです。 それさえしっかりやってくだされば、衣食住の生活はすべて保障しましょう。 死ぬまでの暇つぶしとしてはなかなかいい条件だとは思いませんか」

「……」


 別に、衣食住とかどうでもいい。


「確かに、悪くないな」


 俺はただ、兄と同じ匂いのするエミリア姫の行く末が気になったんだ。

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