隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
この仕事は前職に比べると随分平和で、あくびの出るものだった。
柱の影や屋根の上、色んな所に隠れて能天気なお嬢様を見守って、意地悪しようと不穏なことを考えるみなさまの悪意を事前に摘み取る毎日。
それにしてもエミリアをどうにかしようとする連中の多いこと、多いこと。
俺が来る前にエミリアは、二度死にかけたらしい。
一度は会食中の毒で、二度目は深さのある池に突き落とされて。 それ以外の小さな嫌がらせは数えきれないほど。
この城の執事長をやってるというマートンは忙しく、フォローに徹することができなかったようだ。 なるほど、元殺し屋の俺を雇うわけだ。
マートンと交代でひたすらエミリアの生活を見守っていたおかげで、エミリアについてわからないことの方が少なくなっていった。
とにかく食べるのが好きなこと。 くだらないことでよく笑っていること。 泣き虫だけど、いつも必死に我慢してること。
無視されるってわかりながら城の連中に健気にあいさつしに行くような彼女を、召使いたちはみな親のような視線で見守り、目に入れても痛くないほどに可愛く思っているようだった。
それと、彼女は時折遠くの空を眺めては、少し大人びた寂しそうな顔をする。
彼女がここにきてすぐ亡くなったという彼女の母を思っているのだろうかと思ったら、少し胸が痛んだ。