隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「マートン! マートン!!」

「はい、どうなさいましたか」

「見て! 妖精さんが出たの!」

「おお、それはそれは」

 ふは、と思わず笑った。
 もう十二歳になるっていうのにそんなことを言うエミリアにもだけど、殺し屋のあとの職業が妖精さんだなんて。
 もしブローチを見つけたのが俺だって知ったら、エミリアはどんな顔をするんだろう。
 こんな泥だらけな姿の俺でも、エミリアなら笑顔で『ありがとう』って抱きしめてくれるような気がした。


 それから俺は毎日姫さまを見守って、夜、姫さまが寝静まった後にマートンに稽古をつけてもらうようになった。

 対人戦や武器の扱いなどについては自信があった俺だったけど、学べば学ぶほど自分がいかに弱い人間だったかを思い知らされる。

 そういう時に決まって思い出されるのは、なぜかエミリア姫の笑顔だった。

 もっと強く。 もっと強くなりたい。





「あなたは動揺すると笑うクセがありますね」


 そう言われたのは深夜、暗殺を試みようとしていた者を返り討ちにして、警察に引き渡したときのこと。
 マートンは、うっかり殺されそうになった場面で笑いだした俺のことを言ってる。


「……やりづらいんだよ、生かした状態で捕まえるって。ていうかあいつらみんな殺しに来てるんだろ。なんで殺しちゃダメなの?」


 俺がここに来たときから、マートンは絶対に殺しをしてはいけないと口酸っぱく俺に言ってきた。

 
「死ぬことは、必ずしも罰にはならないからです」

「……」


 なるほど、確かに。
 

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