隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「エミリア様をお慕いしてるんですか」
 

 唐突に聞かれて、言葉に詰まった。

 ゆっくりと自分の中に育っていたこの感情は、きっとそういうことだけれど……


「残念ですが、君があの方と結ばれる未来はありません」
 
「わかってるよ」


 わかってるからこうして目を逸らして、その感情に名前をつけないようにしてきたんじゃないか。

 どこにも持っていけない恋心に苛立つ気持ちをマートンにぶつけたところで、返り討ちに遭うことはわかっているから、唇をかみしめて耐えるしかない。


「強い人間になりなさい。ヨルゴ」


 マートンが俺の頭にポンと手を置く。


「これは力をつけることとはまた違う意味の強さですよ。 強い人間になって、あのお方の未来を守るんです」


 エミリアの尊い笑顔を思い出しながら、心に誓う。


「…………うん」


 たとえこれから一生彼女と話せなくてもいい。 目を合わせられなくてもいい。
 ただ、あの笑顔を守りたい。
 これから10年、20年先も、彼女がどっかの誰かと結婚してしわがれた婆さんになっても、いつまでも幸せそうに笑っていて欲しい。

 だから俺は、強くなる。



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