隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
恋に落ちて / side 〝彼〟
「今回のターゲットは第二王女エミリア・ド・ステヴナン。 ピンクのヒラヒラドレスを着た十五歳のガキだ。 エドガー。 お前、殺れるか?」
「……俺っすか」
エドガー・フォルモンド。
エミリアを殺そうと目論むこのアサシン集団に入るため作った偽名だ。
俺は今、いわゆるスパイというやつをしている。
無論、エミリア殺害を阻止するためだ。
俺がエミリアを見守るようになって五年ほど経っていた。
「お前が一番いいだろう。 その見た目だ、どうせこれまでもたくさん女を泣かせてきたんだろう? 貴族のフリしてエミリア王女に声かけて、外に連れ出してズドンと一発撃ち込めばいいだけさ。 簡単だろ」
「……ははっ」
今は街の酒場で、今度の舞踏会でエミリアを暗殺すべく作戦会議に参加している。
十八になった俺は酒も躊躇いなく飲めるようになったが、相変わらず動揺すると笑うくせは抜けていなかった。
「そうだな。 この中で一番腕の立つお前なら誰も文句言わねえよ」
「……」
この五年間、エミリアの目に入らないように、絶対に見つからないように細心の注意を払ってきた。
マートンは、なぜ俺がエミリアの前に姿を見せてはいけないのか特に説明してこなかったが、エミリアに血生臭いことを悟らせないため、それから奇襲に対応しやすいというメリットのためだと俺は解釈していた。
それと俺のような生まれの者が王女様に手を出さないように、という意味合いもこめられていると思う。
とにかく〝エミリアの前に姿を現さない〟という掟は絶対で、これからも変わらず守っていくものだと自分自身に言い聞かせてきた。
それが突然、姿を見せるどころか、目を合わせて彼女を誘惑して連れ出せと?
そんなこと、いくら作戦の中でも許されることなのだろうか。