隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「なんだ、殺りたくねぇのか」


 困った。 元の計画ではエミリアを殺害しようとする実行犯を横から奇襲し、エミリアに悟られる前に全員戦闘不能にさせる手はずだったが、まさかその実行犯役をさせられるなんて。


「俺、新入りなのにいいんすか」

「いい、いい! お前の腕はみんな買ってるんだ。 信頼できる腕っぷしだ!」


 まさか自分の鍛えてきたものが仇となるとは。
 なにかこの役を逃れられる良い方法がないかと思案するも、思いつかない。

 ……いや、考えてみれば、一番近くでエミリアを守れるんだ。
 俺がエミリアを殺すフリをしてそばにいれば、他に襲ってくるやつはいないだろうし、いても返り討ちにするのは容易い。

 あくまで、エミリアを守るため。


「……やったー。 やりたいっす」


 そう笑ってみせれば、そう来なくっちゃと殺し屋たちは満足そうにする。


「おう、フォローはまかせろ! 確実に殺ってみんなで賞金を山分けだ!」


 作戦を立て終えて酒を酌み交わし平然と笑いながら、内心穏やかではいられなかった。

 ……今回だけ。 今回だけだ。
 この作戦が無事に終わったら俺はまた身を潜めて、陰ながら見守ることに徹する。

 そう自分に言い聞かせながらも、エミリアと話せるんだと思うと、鼓動はドクドクと高鳴って、手に汗が滲む。

 そのとき俺は忘れていた。
 自分がどれほど未熟で、浅はかな人間だったかを。




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