隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。

 あ、と思って振り返ると、すでに三白眼の彼の注意はこちらになく、背中を向けて生物学者のドリューとなにか話しながら奥に歩いていくところだった。


「……マートン、あの銀髪の男性は?」

「ああ、彼はフォルモンド家のお連れ様ですね。東の国から建築技術について学ぶために来られて、今はアノール伯爵の元で暮らしているとか」

「そう……アノール伯爵の……」


 わたしでも知ってる有名な伯爵。

 彼に面倒を見てもらっているということは、きっと相当優秀な方なのね。


「そんなことよりエミリア様」


 マートンの冷たい声は、火照ったわたしの頬を簡単に冷ましてしまった。

 
「聞きましたよ、給仕長から。 また言いつけを破りましたね?」


 ギク。

 マートンの丸眼鏡の奥にある切れ長の目がギン!と光っている。

 言い逃れできないだろうことは分かりつつ、ひとまずお姉さまの声真似をしてとぼけてみることにする。


「……なんのことかしら?」
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