隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
 そしてトリガーは、酒々井くんの手で迷いなく引かれた。



 パァン!


「!!」


 大きな銃声に、行内は水を打ったような静寂に包まれる。




「っ……は、」


 強盗犯が、泣きそうに震える息を吐いた。




「あら危ない」


 酒々井くんが、凪いだ海のように穏やかに言った。


 発砲された銃弾は、酒々井くんの頭上スレスレを抜けて壁掛け時計のすぐ横の壁に着弾していた。



「っ……、お、まえ、なんなんだよ……!」



 動揺した強盗犯が一歩後ずさって、その一瞬の隙に酒々井くんが動いた。

 それは本当に一瞬のことだった。


「ガハッ!」


 強盗犯の呻き声がして、次の瞬間には転んだ強盗犯の上に酒々井くんが馬乗りになっていた。

 強盗犯の手にあったはずの銃は酒々井くんの手にあって、その銃口は強盗犯の額に押しつけられている。


「…………え?」


 当人であるはずの強盗犯でさえ何が起こったのか分からない様子。


 そんな強盗犯に、仄暗い目をした酒々井くんが静かに言う。



「さよなら、おじさん」



 強盗犯の喉がヒュッと鳴る。


 そして酒々井くんの人差し指が、トリガーを引いた。

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