隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。

『まもなく、ターミナル駅。ターミナル駅です……』


 駅に着いて、一斉に降りようとする他人たちとともにホームに降りる。

 人の流れを乱さないように、かつ目的地へ自然と流れるように、空気を読んで歩いていく。

 流行に敏感な若者たちで溢れかえるこの街は、夜遅くまで煌々と眩しく光る店でひしめき合っている。

 俺のバイト先は緩やかな坂道の途中にあるビルの一階にある。

 藍色に白字で『やよいうどん』と書かれた暖簾をくぐると、鰹・昆布の合わせ出汁のいい香りが漂う。

 価格は安すぎず高すぎず、客層は若者から爺さん婆さんまで幅広い。

 夕飯前でまだ店内の席には余裕があるけど、あと30分もすれば客がなだれ込んでくるだろう。


「いらっしゃー……あ、お疲れ様ー!」


 接客スタッフの女子大生バイトが俺に気付いて笑いかけると、他のスタッフも気付いて声をかけてくれる。


「おざまーす」


 適当な会釈を返して、奥の厨房に進む。

 厨房ではスタッフたちが湯気にまみれて熱そうにしながら、うどんを湯ぎったり天ぷらを揚げたりと、忙しなく働いている。

 それでも俺に気付くと、うーす!と爽やかな笑顔で目くばせする。


「うぃーす」


 それに適当な返事をしつつ厨房の奥まで進み、更衣室と書かれたプレートが貼られたドアを開けた。

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