隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
 一度ロッカーを閉じて、裏側にある壁をグッと押す。

 ……ギィ。

 小さな隠し扉のお出まし。

 身をかがめて足を踏み入れると、ローファーがカツン、と音を反響させた。

 天井を這うむき出しの配管と、なんの塗装もない壁や地面が冷たい空気を作り出していて、人の来訪を拒んでいる。

 外の光が入らないその場所には、チカチカと切れかけた蛍光灯が下へ続く錆びついた階段を照らしたり照らさなかったりしていた。
 
 カンカンと音を響かせながらその階段を降りていくと、今度はダイナマイトでも壊れないだろう重たいドアが現れる。

 そのドア横には、暗証番号入力の端末。

 バイト先への道のりは長い。

 番号に指先で触れるとピッと高い音が鳴る。

 毎回変わる暗証番号を間違えないようにゆっくりと押していく。

 一度でも間違えるとこの端末から自動的に毒針が発射される仕組みで、先月うっかりしたやつが食らって失明したとか言う話を聞いた。

 10桁の暗証番号を無事に入力し終えると、ピピッと機械音が鳴ってランプが緑に点滅して扉が開く。

 その先には暗く狭い廊下が続いている。

 このまままっすぐ歩いていくと、壁に突き当たる。

 つまり、行き止まり。

 俺のバイト先は、その行き止まりの手前にある隠し扉を開けると、ようやく到着する。


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