隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。

 ハーティスに手を引かれ眩しい照明の下へ向かいながら、彼に見られているかもしれないと思うと、なぜか胸がざわついた。

 そのままハーティスと一曲踊り終えると、ウィリー、ジョージ、ハドソン……かわるがわる貴族の男性たちに誘われて、手を重ね、体を密着させ、踊る。

 ちなみにみんなお姉さまへの恋に敗れた方たちだ。

 私はマートンに教えてもらったステップを間違えないように用心しながら、男性たちの気難しい話を聞き流しながら、やっぱり彼の姿を探してしまう。

 すると偶然か必然か、何度もそのエメラルドグリーンの瞳と目があった。

 彼も他の女性と手を繋いで上手にダンスを踊っていて、その姿を見たらやっぱり、胸がざわざわとした。

 互いに近づいた時にはどうしようもなく恥ずかしくなって、思わずうつむいた。

 一曲終わって楽器隊が休憩に入ると、会場の人たちは楽しい雑談の時間に入る。


「お疲れ様です、エミリア様」


 会場の隅で、慣れないダンスで少しグッタリする私を憐んでくれたのか、マートンが先ほどのベリーを少しだけ持ってきてくれた。


「ありがとう、マートン……」


 ……あれ?


「エミリア様? 召し上がらないのですか?」

「……なんだか……胸がいっぱいで……」

「ええ!?」


 マートンが大事件だと言わんばかりに驚いてのけぞったので、使用人たちの間で『接着剤で顔に固定されているらしい』と噂されていたマートンの丸眼鏡が、ずれた。


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