咲く薔薇は月に輝く

「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

いつもの挨拶を背にあたしは家の扉を開けた。

…。行ってくる。って言いたいけれど

どこで誰があたしを見ているか分からないから、必要以上の会話はしない。

どこで間違ったのだろう。こんな考えのせいでお世話係、七瀬と何年も喋ることが出来ない。

ごめんね、七瀬。言いたいけれど言えない。

最後、この家を出る最後にちゃんとお礼を言うからね。

それまで待ってて

❁⃘*.゚

「よぉ、まーちん」

この声は!

「かーな!おはよう!」

この子は花菜。愛称はかーな。

あたしの大切な仲間だ。

「今日、雪やって〜!積もるかいな?!」

かーなは、福岡から来た子で、博多弁が特徴のかわいい女の子。

「積もるといいねぇ!」

かーなの前ではあたしも素のあたしでいられる。

「まーちん、かーな、おっはよぉ〜」

「なびぃ〜!」

「なび、おはよう!」

この子は花火。愛称なび。

「雪やで!雪雪!積もる?!積もってぇ〜!」

なびはセルフ関西弁の根っからの東京人。

あたしも東京人。

あたしたちが通う学校、旧帝華学院高等学校(きゅうていかがくいんこうとうがっこう)は、由緒正しい学校で知られている。

重厚な門をくぐれば綺麗に舗装された大きな道の真ん中にこれまた大きな噴水がある。

この高校が女子校だった時からあったらしく、噴水の1番上にはかの戦乙女、ジャンヌダルクの像が飾られている。

言わば、ジャンヌダルクのような、強い心を持つ人になりなさいって意味。

古臭い学校だなぁといつも思っている。

「あ、まーちん今日の集会くる?」

「あーー…どうだろう」

「ほんとまーちん最近全然これてないやんかぁ」

「まぁ、バレてないだけマシじゃない?」

バレてない、というのはあたしが暴走族に入っているということ。

正直、令嬢としての生活には飽き飽きしていたから、ある1年生の夜、家を飛び出した。

❁⃘*.゚

行くあてなんてなかった。とりあえず近くの公園へ足を運ぶと、何やら夜なのに人の声がする。

「…?なんだろ」

初めて家を飛び出した高揚感からか、なんの躊躇いもなくあたしは声のする方へ行った。

そこには―――。

昭和の制服のような、でもピンク色の長いコートのようなものを着ている女の子たちがいた。

みんな、膝をおっておしりがつくか、つかないかギリギリの体制で賑やかに話していた。

そこであたしは気づいた、みんなの手、正確には二本指に挟まれているタバコに。

「これって…、」

暴走族とか、ヤンキーとか言う人達なのではないだろうか。

もう、最近はいないって思ってたけれど…。

いたんだ…。

でもあたしが見た女の子たちは、話で聞いた荒々しさはなく、ただ楽しそうにおしゃべりをしている女の子に見えた。

「いいなぁ、」

ふと零れたあたしの気持ち。

これは本音なのだろうか。あたしなんかと違って、友達だけでこんな夜に外でおしゃべりをしている。

それに、とても楽しそうだ。みんなの顔がキラキラして見えた。

「誰かいるのかーー?」

女の子達の1人があたしの呟きを拾ったようで、

こちらへと声をやった。

どうするべき?逃げる?でもあたし足はあまり速くないし…。

うんうんと考えているうちに

がさっ

「あーーれーー??」

女の子があたしのことを見つけた。

「あっ…!」

「んー?どしたのーー?」

なんだなんだと、ほかの女の子たちもこちらへ向かってくる。

「あっ、あの!ごめんなさい、盗み聞きしてた訳ではなくて!」

あたしを見つけた女の子、ボブヘアでハーフアップをしている子は、じーーっとあたしを見ている。

……ん?なんかこの顔見たことがある気が…?

「琉(りゅう)さーーん、この子同じ高校の子だぁー」

琉…。聞いたことあるぞあたしの学校で。

2年生の峰原琉華(みねはらりゅうか)。成績優秀で、生徒会副会長を努める『天才』って噂されている。

なんでも実家が京都の歴史ある家らしく、京言葉で話しているとか。

あたしも1度生徒総会で見たことがあるけど、その時は長い黒のストレートヘアを下ろしてハーフアップをしていたはず。

うちの学校は清楚なメイクならOKだからノーメイクだったことが印象に残っている。

でも、峰原さんが今こんな所いるわけ…。

「あら、ほんまや」

あれ、京言葉ですね、?

いやいや、冗談でしょう、さすがに、ね?

「あんた、生徒会に入っとる子やない?うちの事分かってはるかいな?」

「あ、はい…知ってます」

返事をすると峰原さんはぱぁっと顔を明るくして

「偶然やなぁ!でもこんな夜に何してはるの?」

いや…。あたしも聞きたいですよ…。

「……」

なんて答えればいいんだろう…。家から飛び出した挙句、人からの質問にも答えられない。

なんだか、分からないけど、悔しい。

今まで自分の意思で行動してこなかったから、きっとこうなったんだ。

…っ。悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい。

「えっ、あんた、なんで泣いてはるの!?」

「えっ」

頬を触ると確かになにか暖かいものが流れていた。

峰原さんはあたしをじっと見たあと、

「なぁ、ちょっとこっちおいで」

と、あたしの手を掴んで引っ張っていった。

「ほら!あんた達も!行くよぉ!」

はーい!と元気な声がしてほかの女の子たちも着いてきた…。

❁⃘*.゚

「はい、着いたよぉ」

そう言って峰原さんはこぢんまりしたバーへあたし諸共入っていく。

…って!あたしらまだ未成年だよっっ!!??

グッと足に力を入れて踏みとどまる。

さすがにバーはまずい。

「?あんた、なにしてんの!はよ入んなさい!」

「無理です!ここ、バーじゃないですかっ!」

「ええから!入りなさい!」

「無理無理無理無理無理無理無理無理です!!」

「ああん!もう!手のかかる子や!ほら!花火、花菜!手伝って!」

「「はぁーい!」」

「ほらほら、入ろ!別に危ないことはせんから!」

「ほら、はいんな、一緒お話しよな」

ぐい、ぐいぐい

えっちょ、待ってください

見かけによらずこの子達力強っ…!

「あ、なび、持ち上げたらいいやん!」

「あ!たぁしかにぃ!かーなほんま天才☆」

「「てことでーー♪」」

へ?へ?へ?

なんてことも無いようにひょいっと持ち上げられてあたしはバーの中に強制連行されていった。

「こんにちわぁマスタぁー」

峰原さんは時間感覚が狂っているのか夜中の12時にこんにちはを唱えながらマスターらしき人に挨拶をした。

「いらっしゃい。あれ、今日は始めてみる子もいるね」

「いつもの公園で拾ったの、うちの後輩よ、可愛ええやろぉ!」

あ。あたしって拾われたのね?なんか、猫みたい…

『うちの後輩』。

あたしのこと、後輩って位置づけてるのかな、峰原さん、。

「後輩だなんて、、」恐れ多い気が―――

「琉ちゃんまたお仲間が増えるのかぁ」

マスターが意味深なことを言った。

お仲間、?え、なんの?

「そーそー!この子きっと強ぉなるわあ!」

!?

ばっ!とほかの女の子たちの方を向くけれど、みんなもニコニコしててなんか、よくわかんない。

「あの〜、お話の内容がさっぱり分からないのですが、?」

「えぇ?だぁから!あんた!うちのチーム!入りや!」

やけにビックリマークの多い話し方で峰原さんは、力強くあたしを勧誘し始めた。

「え?」

どゆこと?チーム?え?あれ?さっきマスター、お仲間って言ったね?

「あの、あたし今、勧誘されたんですかね、?」

「そーそー!仲間増えたら嬉しいし!」

なんか、地味に話が噛み合ってない気がする。

「特服はロングがええかなぁ、ショートでも似合いそぉやわ!」

なあ!真華ちゃん!と、峰原さんはあたしを見て

「今日からうちらの仲間!なろや!」

「は…はぁ、。」

頷いてしまった。

やったぁあ!!と峰原さん含む女の子たちはきゃあきゃあ喜んでいた。

……?あ、だから、あたし今日からこのチーム入ったってこと?

不思議と嫌だとは思わなかった。むしろ…

『楽しそうだ』と思った。

これがあたしの夜の始まり。

❁⃘*.゚

「ほらぁ!まーちん!何ぼぉっとしてんの」

つい、出会いのあの夜に浸っていたみたいだ。

「ごめんごめん!今行くからー!」

「なぁなぁ、かーな、今日体育あったっけ」

かーなとなびは3組、あたしは6組。

まあ、休み時間はほとんど一緒にいるけれど、ちょっと寂しい。

でもでも、5組には同じチームの仲間である陣川來良(じんかわ らいら)が居る。

この子はあたしらのチーム闘月隊(とうるたい)の特攻隊の隊長で、めちゃくちゃ明るい頼りがいのある女の子!らいらは、あたしや、かーな、なびの一個年上の代の子で、あたしらから見たら同い年だけど先輩。

あたしも特攻に所属だから2人よりもずっとお世話になっている。

だから、よく休みの日とかは2人でこっそり単車で海に行ったりする。

本当にお姉ちゃんみたいな存在だ。

あ!

「らいらっ!おはよ!」

綺麗な栗色のロングヘアをなびかせて

「まーちゃん!おっはよぉ!」




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