クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

「先輩、服を脱いでください! そしてお風呂に入ってください! 体を温めないとッ」

「…………ふぅ」

「先輩?」


アンタのせいで濡れたんだけど?とか言われるかと思ったのに、先輩から漏れたのは吐息だけ。


「シャワー止めて」

「でも、これからお湯が、」

「いらない。これから俺も同席する会議があるから、このまま行く」

「えぇ⁉」


このままの状態で⁉

すると本当に先輩はびしょ濡れのまま、バスルームを後にした。

濡れた手でスマホを触り、電話で「マンションに車つけて」と誰かと話している。

えぇ、先輩。
まさか本当に、そのままで行くの?

ピッ


「じゃあ先輩、車が来るまで、せめて髪だけでも乾かしましょ!」


おいでおいでと手招きするも、ふいと顔をそらされ、まさかのスルー。

そしてバスタオルを手にして玄関へ。濡れた足もそのままに、靴を履き始めた。

いくら何でも雑すぎますよ、先輩……。

すると私に背中を向けたまま、先輩がポツリとこぼす。


「水をかぶって良かった。頭が冷えた」
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