クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
ドサッ
「会議中は何とか気張ったみたいですが、車に乗った瞬間に座席からズルズル落ちまして。見たら顔が真っ赤だし、額も熱いしで……珍しいですよ、響希様が風邪なんて」
「珍しい?」
「自分第一な人でしょう? 損する事は絶対にしないんですよ。頬を叩かれるならまだしも、水をかぶるなんて……。
今までの響希様からは考えられません。一体どなたが、響希様を変えてくださったんでしょうね」
「!」
確かに先輩は、冷水から私を守ってくれた……。
で、でもでも!
先輩ったらヒドイ事を言ったんだよ?
複雑な顔をして俯く私に、安井さんはクスッと笑った。
「しかし、凪緒様が響希様の言いなりじゃないなら安心しました。どうかこの先も、振り回してやってくださいね。響希様にとって良い薬になるはずですから」
「薬?」
「ふふ」
すると安井さんは「さて」と立ち上がり、素早く玄関に戻った。
「風邪に効く食べ物を買ってきます。凪緒様、何かリクエストはありますか?」
「えと……」
一通りの薬はある。だけど果物とかあった方がいいよね。
あ、でも……。