クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

「安井さん、ありがとうございます。だけど、私が自分で行きます」

「え、」

「先輩のこと……、私が一人で頑張ってみたいんです」

「!」


安井さんは驚いた顔をした。だけど「なるほどね」と、寝室にいる先輩をチラリと見る。


「〝善意だけで俺を思うヤツなんて誰もいない〟なんて夢のない事をおっしゃっていましたが……ふふ」

「……安井さん?」

「いえ、何でも」


安井さん、上機嫌だ。安井さんって猫のような顔をしているから、今にもゴロゴロと、喉の鳴る音が聞こえてきそう。


「あ、長々とすみませんでした。それでは失礼しますね」

「ありがとうございました、安井さん」

「とんでもないです。何かお困りごとがあれば、この番号におかけくださいね。では」


バタンッ


スマートに私に名刺を渡した安井さんが帰り、家にいるのは弱った先輩と私のみ。

お昼は先輩のクズさに心折れかけたけど……でも、苦しんでる先輩を放っておけない。早く元気になってほしいよ。
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