クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「時山家秘伝の、風邪によく効く薬だよ」

「へぇ。いかにも……ですね」


黒い液体は「体が重い」と言わんばかりに、ゆらり、ゆらりと全体が揃って動いている。葛湯のような粘度だ。


「どうしたの? 飲まないの?」

「先輩は飲んだことあります?」

「当たり前じゃん。風邪引いたら、いつもこれを飲まされてたもん」


くすくす笑いながら先輩が立ち、俺が座っているソファへ移動する。「一気にいったほうがいいよ」と忠告するあたり、きっと苦いんだろう。


「良薬は口に苦し、ですね」

「そういうことです」

「錠剤よりはいいか……いただきます」


意を決してカップを口に運び、傾ける。するとゆっくりした速度で、口の中に液体が流れ込んできた。


コンッ


「よく飲んだね、城ケ崎くん。ふふ」

「ご馳走様でした……って。なんだか嬉しそうですね」
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