クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
見間違いかと思った相手。
それは、私のスマホに登録したての人。
私の婚約者、そして――
私の大好きな人。
「行かなきゃ……っ!」
やっぱり、時山先輩に城ケ崎先輩は渡せない。
先輩は、私の大事な人だから――!
「先輩、電話に出て! お願いっ」
今、先輩の声を聞きたい。いつもの声で「凪緒」って呼ばれたい。
それなのに……肝心の先輩は電話に出ない。さっきもワンコールで切れたし、先輩、何かあったの?
「なんで私、時山先輩の家を知らないの……っ」
今から学校に行って、時山先輩の家を先生に教えてもらう? でも個人情報が理由で却下されそうだし。
じゃあ、どうすれば――
その時。
目の前に、長くて黒い車が止まる。
すぐに運転席のドアが開き、見知った顔が降りて来る。安井さんだ。
「凪緒様、お迎えにあがりました。これから時山家に参ります。ご一緒して頂けますか?」
「安井さん……はいっ。私を城ヶ崎先輩の所に連れて行ってください、お願いします!」
ガバッ
深くお辞儀をすると、安井さんが柔らかく笑った。