クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
その時の先輩が泣いてるように見えて、だけど泣いていなくて――むしろ泣きそうなのは自分だと、時山家を出てから気づいた。
「なんで、アンタが泣いてんの?」
「ま、まだ泣いてません……っ」
「……ふっ、変な奴」
しんどそうな先輩が、目を伏せて笑う。その横顔がキレイで、こんな時だというのに思わず見とれてしまう。
「……なに、そんなジッと見ないでよ」
「だ、だって……」
先輩に聞きたいことが色々ある。
本当に、たくさんあるの。
どうして私に電話をくれたの?
時山先輩とは何もなかったの?
さっき言った事、アレは本心?
――俺は恋をするなら、先輩じゃなく凪緒がいいんです
聞きたい、今すぐ答えを知りたい。
ねぇ先輩。
聞いたら、素直に答えてくれますか?
はぐらかさず、今度こそ私と向き合ってくれますか?