クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

「……せ、先輩、あのっ!」


意を決して口を開いた時、急に安井さんが目の前に現れる。


「響希様、凪緒様!」


見渡すと、ここは門の前。
良かった、無事に帰ってこられたみたい。


「安井、心配かけた」

「響希様……」


先輩の顔を見た瞬間、安井さんから「ほぅ」と安堵の息が漏れる。だけど先輩の全身をザッと確認した後、困ったように眉を下げた。


「すぐにお二人の家に向かいます。響希様、それまで辛抱してくださいよ」

「ん……、頼む」


来た時と同じく、少し慌ただしいスピードで車は発車した。

安井さんが運転する中、先輩は私の隣で「はぁ、はぁ」と息荒く呼吸している。先輩、風邪がしんどそう……。薬は飲んだのかな?

心配で先輩の顔を覗き見る。すると薄茶色の前髪の向こうから、ぼんやりした瞳と視線が合った。


「凪緒……」

「先輩、体調どうですか? 家に帰ったらおかゆを、」

「それより……今は、こっちの方がいい」
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