クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「触っちゃ、ダメなの?」


まだ見ぬ領域へと、足早に踏み入れた。


「俺は触りたい、見たい……その先だって」

「ま、せんぱ……あっ」


ぬくもる車内。
くもるガラス窓。
湯気だちそうな二人の吐息。

傷を舐め合うもの同士の末路。それは――


バタンッ


「おやおや響希様。〝辛抱してくださいよ〟と言ったのに」

「……安井、さんっ」


いつもと変わらないニコニコ顔の安井さん。

こんな状況なのに〝いつもと同じ表情〟というのが怖くて、咎められているようで……乱れた制服を素早く直す。


「す、すすす、すみません! もう家に着いたんですね、ありがとうございます! 行きますよ先輩……あれ?」


だけど、どうやら先輩の熱は、そう簡単には引かないらしい。

すぐそこに安井さんがいるというのに、「凪緒」と。未だギラついた目で私に迫る。
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