クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「…………はぁ~」
慌ただしさが一転。
音のない、静かな世界へと早変わりした。
クルリと車内を見る。
私ってば、この中で先輩とっ。
「でも、媚薬だったんだよね……」
先輩の心が私に向いたかと思った、けど違う。全部ぜんぶ、薬のせいだった。
きっと時山家での発言も、その場限りの〝でまかせ〟なんだろうな。
――心から俺の事を考えてくれる、想ってくれる。そんな婚約者に〝応えたい〟と思うのは当然でしょう?
――俺は恋をするなら、先輩じゃなく凪緒がいいんです
あぁ言えば時山先輩を黙らせ、逃げることが出来たから。あの言葉の中に、きっと先輩の意志はない。
「全部ウソ、かぁ……」
でも、私に落ち込む資格はない気がする。
だって私、「何も出来なかった」もん。
時山先輩の家に行けたのも、城ケ崎先輩を取り返せたのも……私の力じゃない。
安井さんが来てくれ、城ケ崎先輩が守ってくれたから、こうして無事に帰ってこられた。