クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「私が苦しい時は、いつも先輩が助けてくれた。だけど先輩が苦しんでいる時、私は何も出来ないなんて……」
無力な自分が嫌だ。
守るものも守れない自分が惨めで醜くて、情けないほど、脆くて小さい。
「もっと強くなりたい……」
守られるだけの私でいいの?
先輩の婚約者でいたいなら、もっと私が頑張るべきじゃないの?
「……よし」
いつか安井さんから渡された名刺を見て、番号をかける。するとワンコ―ルで「はい」と応答があった。
『凪緒様、いま連絡しようと思ってました。響希様がやっと寝ましたので、どうぞお上がりください』
「そうですか、ありがとうございます。でも……私は、家に帰れません。
しばらくの間、先輩をよろしくお願いします!」
『え? 凪緒様⁉』
プツッ
再び静かになった車内。
その中に、もう私はいなかった。
❁⃘*.゚