クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「うん、分かった」


カバンを使用人さんに預ける。

そして広いリビングを出て行く時、飲み物を持ったトヨばあとすれ違った。


「あら、お嬢様。旦那様のところへ?」

「うん。後で飲むから、机に置いといてくれる?」

「かしこまりました」

「あと」


頭上にハテナを浮かべたトヨばあ。

この無垢そうな顔に、私はしてやられたんだよねぇ……。


「もう怪しい香水はいらないからね? 変な物を買わないことッ」

「ほっほっほ。もしや追加で取りに来られたのかと思いましたよ」


あっけらかんと笑うトヨばあ。

追加で、なんて……。
そんな事あるわけないじゃん!


「心配しなくても、そんな雰囲気にすらならないから安心してよ」

「お嬢様……」


「じゃあね」と手を上げて、玄関をちょっと行った先にあるらせん階段を登る。

そんな私の後ろ姿を、トヨばあとお母さんが並んで見ていた。


「どう思いますか、奥様」
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