クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「う~ん。私はてっきり〝婚約破棄のお願い〟に来たと思ったけど」

「ほっほっほ。なわけありますかい。見て見なされ、お嬢様の顔を。あれは、完璧に恋をされている顔です。むしろ私はてっきり、オメデタの報告かと思いましたよ」

「それは大問題だからね、トヨばあちゃん?」


お母さんの圧にも負けず「ほっほっほ」と飲み物を持ってリビングに入っていくトヨばあ。

ため息をついた後。お母さんは再び、私が昇った階段を見た。そして「凪緒、がんばるのよ」と。密かに私を応援してくれるのだった。


一方の私は、お父さんの書斎をノックする。


コンコン


「誰だ」

「凪緒です」

「……入れ」


重たい扉を開けて、中へと足を進める。

広い窓の前に、大きなデスクがいくつか並んでいる。その真ん中で、静かにキーボードを打つお父さんの姿。

年齢に合わせてなのか、それともオシャレなのか。髪がグレーに変わってる。オールバックだから、お母さんとは正反対なつり目が存在感を際立出せていた。


「久しぶり、お父さん。元気そうだね」
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