クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「……イヤになったの。何も知らない自分が」


時山先輩に、城ケ崎先輩を奪われて初めて知った。私は無知で、無力だって。


――城ケ崎家を不幸にする力が私にはあるって事、忘れないでね


時山先輩は学生の身でありながら、城ケ崎家を揺らすだけの権限を持っている。

城ケ崎先輩だって、そうだ。


――時山家の買っている株に不穏な動きがあったと報告があり、早急に会議を開かせてもらったので


会社に不利益が行く前に、危険を察知して会議を開き、それを阻止した。権力や頭脳がないと出来ないことだ。


だけど、私は?


――社会のことも、会社のことも、生きる術すら分かってない一般人と婚約させられて。今まで頑張って来た城ケ崎くんが哀れよ


時山先輩の言う通りだ。
私は確かに無知で無力で、何も出来ない。

ただの、役立たずだ。


「もう……、嫌なんです」


何もできない自分が嫌だ。
今を変えられない自分が嫌だ。
好きな人を奪われ、指をくわえて眺めるだけの自分が嫌だ。
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