クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
私は今、夢を見ているのかもしれない。
だって……
「俺の婚約者を、迎えに来ました」
先輩が、こんな甘いセリフを言うなんて――
先輩の声がした気がして、目を開けると誰もいなくて。かわりに、隣の部屋から響希さんとお父さんの声が聞こえた。
その中で聞こえたのは、
ウソに決まってる。
きっと冗談なんだろうな。
それとも、私が寝ぼけてる?
でも、でもさ……
「俺の婚約者」って言ったよ?
「迎えに来た」って言ったよ?
これって、もうさ、
「たとえ夢でも、幸せすぎるよ……っ」
なんで先輩が、そう言ってくれたのかは分からない。もしかしたら、「アンタの家族の前だから、あぁ言った」ってだけかも。
だけど――それでもいい。
ウソだとしても、嬉しすぎるよ。
「色々話したいことはあるが、凪緒があの調子だ。悪いが、連れて帰ってやってほしい」
「凪緒さんは?」
「疲れて寝ている。どうして疲れてるかは、凪緒本人から聞くといい」
「……分かりました」
するとお父さんが「こっちへ」と言った後、二人の足音が大きくなる。
わゎ、こっちに来ちゃう!