クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です



私は今、夢を見ているのかもしれない。

だって……


「俺の婚約者を、迎えに来ました」


先輩が、こんな甘いセリフを言うなんて――


先輩の声がした気がして、目を開けると誰もいなくて。かわりに、隣の部屋から響希さんとお父さんの声が聞こえた。

その中で聞こえたのは、

ウソに決まってる。
きっと冗談なんだろうな。
それとも、私が寝ぼけてる?

でも、でもさ……

「俺の婚約者」って言ったよ?
「迎えに来た」って言ったよ?

これって、もうさ、


「たとえ夢でも、幸せすぎるよ……っ」


なんで先輩が、そう言ってくれたのかは分からない。もしかしたら、「アンタの家族の前だから、あぁ言った」ってだけかも。

だけど――それでもいい。
ウソだとしても、嬉しすぎるよ。


「色々話したいことはあるが、凪緒があの調子だ。悪いが、連れて帰ってやってほしい」

「凪緒さんは?」

「疲れて寝ている。どうして疲れてるかは、凪緒本人から聞くといい」

「……分かりました」


するとお父さんが「こっちへ」と言った後、二人の足音が大きくなる。

わゎ、こっちに来ちゃう!
< 177 / 291 >

この作品をシェア

pagetop