クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

急いで寝たふりをする。口元のニヤつきがバレないよう、髪の毛で顔を覆った。

すると「あぁ、こんな所に」と、耳元で先輩の声が聞こえる。かと思えば、ふわりと宙に浮く私の体。

え、私……先輩にお姫様抱っこされてる!?


「では、凪緒さんを連れて帰りますね」

「久しぶりに娘と時間を共にできて嬉しかった。

また来なさい。その時はスーツではなく、もっとラフな格好で。俺たちは将来、家族になるんだからね。もちろん〝社長〟呼びも禁止だ」

「!」


すると動揺したのか、先輩の体が僅かに揺れた。そして「無理いいますね」と、困った風に笑う。


「社長に〝お父さん〟と呼ぶのは、気が引けますよ」

「構わない。凪緒に言わせりゃ、我が家は〝安定してない成金一家〟らしいからな」


ハハと、お父さんが笑う。楽しそうなお父さんの声を久しぶりに聞いた。それに先輩も、なんだか楽しそう。
< 178 / 291 >

この作品をシェア

pagetop