クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「子供は子供らしく、縛りに囚われず自由にしなさい。特に君は、一人で抱える割に突っ走りそうだからな。
……そうだな。
たまには素直になること。
これを忘れず覚えておくことだ」
「素直、ですか……」
目を瞑っていても、目の前が暗くなったのが分かる。どうやら先輩が、私の顔を覗き込んだらしい。
き、緊張する……!
寝たふりがバレませんように、と変な汗を流す私とは反対に、先輩はお姫様抱っこしたまま、器用に私の顔にかかった髪をよけた。
久しぶりの先輩の手に、先輩の温度に……目の奥が熱くなる。先輩に触れられるのは、いつぶりだろう。
「……〜っ」
「……。貴重なお言葉、覚えておきます。それでは失礼します」
お辞儀をした先輩に、「響希くん」と。
お父さんが呼び止めた。
「これを」
カサッと音がする。
だけど、それは一瞬のことで……。
「〝頼むよ〟」
「……わかりました」
後は何事もなかったように、先輩は部屋を出て、みんなに見送られながら丸西家を後にした。
さっきのは何?と気になったけど……。それよりも、いつまでも私を離さない先輩にドキドキしちゃう。