クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「凪緒」
「は、はい!」
「やっぱり起きてた」
あ、しまった!
つい返事しちゃった!
怒られる!と思って、更にギュッと目を瞑る。
だけどコツコツと、先輩が歩く音は続いた。
え……、どゆこと?
道端に投げ捨てられる覚悟をしてたのに、傷つく覚悟は、とっくに出来ていたのに……。
「先輩、寝たふりしてた事を怒らないんですか?
どうして私を降ろさないんですか?」
「さぁ、なんでだろ」
この時、私は初めて目を開けた。瞳に写ったのは、一週間ぶりに見た先輩の顔。
会いたくて会いたくて、休憩時間の度に思い出していた人だ。
薄茶色の前髪が、切れ長の瞳にかかっている。髪の色と似た茶色の瞳は、前とは違う速度で、前より少し高い温度で揺れてるように見えた。
「重いから離したい、けど……」
「〝けど〟?」