クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「ん」
「〝ん〟?」
差し出されたのは、先輩が手にしていたマグ。色からして、中に入ってるのはブラックコーヒー。
タブレットを手にしている現在、いつもならニュースを眺めるはずの切れ長の瞳は……なぜか私を見つめている。
「飲まないの?」
「え、でも……これは先輩のですよね?」
言うと、先輩はふっと笑った。
「凪緒コーヒー飲むの初めてでしょ。だから、コレで味見したら? 飽きたら俺に返して」
「~っ!」
うっわ、あっまぃ……っ。
ブラックコーヒーを渡されてるのに、本人がお砂糖たっぷりの激甘なんですけど!
「あ、ありがとう、ございますっ」
「熱いよ」
「は、はいぃ……っ」
「熱いよ」って、何それ。
熱いから気をつけなよって、そういうこと?
前の先輩だったら、私が転げようが舌を火傷しようが「なにやってんの」って白い目で見るだけだったのに……。
先輩が私のことを心配してくれる世界って……存在したんだ。そんなの、そんなの――!
ごくんっ
「あ、甘すぎ……ですっ」
「え」