クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

「口には〝しない〟であげる。お嬢様だしね」

「あ……っ」


リップ音や先輩の声を聞いてると、モヤのかかった頭が、不思議とクリアになっていく。

悔しい、なんで先輩なんかに……っ。

だけど気付けば、荒かった私の呼吸は通常に戻りつつあった。体の火照りも、時間が経つごとに治まってる。


「まさか、効果が切れた……?」


よ、良かった。すごく一時的なモノだったんだね。けど、すごい即効性……恨むよ、トヨばあ!


効果が切れたことに安心して「はぁ」と深いため息が出ちゃう。

良かった、これ以上キスなんてされたら、私――


「ん?」


私――の後は、なに?

先輩にキスされたら、私って、どうなるの?



「考え事? 余裕だね、凪緒」

「っ!」


ハッと意識を戻すと、私の下にいる城ヶ崎先輩。

いつも「カッコイイ!」と連呼してた憧れの人は、今や私が組み敷いている。

近すぎる距離。
先輩の裏の顔さえ知らなければ、この距離を幸せに感じるはずだったのに。

いま抱く感情は、とっても複雑。


「……最悪ですよ、もう」


婚約者である私を裏切っておきながら、申し訳ないと微塵も思ってない先輩。

心無い人と婚約しちゃったな。
最悪だな、って。

そう思ってるのに……


――これからよろしくね、凪緒
――考え事? 余裕だね、凪緒


先輩に名前を呼ばれると、どうしても反応してしまう。胸の奥が、ぴょんって跳ねるような。

小さなことで喜んでる自分を、嫌でも見つけてしまう。
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