クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
自分の声に、ブンブンと頭を振る。
いやだ、婚約破棄なんてしたくない。
朝は夢見ちゃって、もっと甘い時間が欲しいって思ったけど。もっと優しい先輩がいいって思ったけど。
「先輩と離れ離れになるのは嫌……っ」
どんなに欲を出しても、それは先輩が隣にいてこそ。
だから、お願い。
どんなにクズでも冷徹でもいいから、私から先輩を奪わないで――
そう願った時だった。
プルル、と電話が鳴る。
見るとお父さんからだった。
「はい、凪緒です」
『いま時間あるか? 体育祭の資金援助について話しておきたい』
「あ……、私も連絡しようと思ってたの。丸西家は援助しなくていいの?って」
『ほう、予想していたか。猛勉強した甲斐があったな、凪緒』