クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「! い、いってらっしゃい……!」


バタン


閉ざされた玄関を数秒笑顔で見つめた後、ズルズルとその場に座り込む。

さっき私が見たのは、幻覚?


――いってきます


あの響希さんが、そんな事を言うなんて。しかも、ちょっと照れながら。私と目を合わせないよう、必死に違う方を見ながら。


「響希さん、かわいすぎる……っ」


響希さんが「私に興味が出た」と言った日から、明らかに私たちの関係は変わってきている。


「だってキスも、挨拶も……。それに〝名前で呼んで〟なんて」


昨日から響希さんの甘すぎる言動に、心がついていかないよ。嬉し過ぎて、どうしようもない。


「そう言えば、昨日のアレ。結局なんて言おうとしたんだろう?」


――やっと凪緒と…………って、やっぱ言わない


「私と、の後はなんだったのかな。気になるー」


その時。ふと時計を見ると、もう出発の時間。

急いで準備して玄関を出た後、エレベーターのボタンを押した。
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