クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「あ、こういう時こそ電話だよ! 少しだけ響希さんの声を聞こう」
エレベーターを待つ間、すぐ電話をかける。すると数コールで、響希さんは電話に出てくれた。
ガチャ
「あ、ひ、響希さんッ」
『凪緒?』
わー、響希さんだ!
三日ぶりに響希さんの声だ!
『どうした、何かあった?』
「いえ、声を聞きたかっただけです。へへッ」
とルンルンモードの私。
だけど――
『――響希くん、もう時間だ』
「ん? 今の声って……」
聞いたことある声。
っていうか、つい最近きいた声。
「聞き間違いだよね?あの二人が一緒にいるはずないもん」って思うけど、私がその声を聞き間違うはずがない。
自分の父親の声は、いやでも分かる。
「響希さん、もしかしてお父さんと一緒に、」
『いま仕事中だから、また電話する』
ブツッ
早口で言われた言葉と、むなしく繰り返すだけのツーツー音。
「どうして……?」