クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「先輩、パン……」
まだありますよ――
そう言おうとして、やめた。
そうして、もう一度。椅子に座る。
いま私たちが話さないといけないのは、パンよりも「二人の事」だ。
「さっきの話なんですけど」
「……なに」
先輩は、タブレットから目を逸らさないまま尋ねた。
既に制服に着替えてる先輩は、裏の顔モード。
学校でする「王子様スマイル」は、不在中。
「例え形だけでも、婚約したんです。
私たち、将来は結婚するんです。
だから……他の女の人を呼ぶのは、やめてください」
「なんで?」
「なんでって……普通に傷つきます」
むしろ、こっちが「なんで?」だよ。
この人、堂々と不倫宣言しちゃってる。
「私と先輩が住むこの家に、他の人の存在がチラつくのは……嫌なんです」
「……」
先輩は、タブレットから目を離した。そして私を、真っすぐ見てくれる。
あ、ちょっとは改心してくれたかな?
って思ったのに――