クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「昔から父の姿を見ていたから、俺が社長になるのは当たり前だと思っていたし、頭には会社のことしかなかった。
だけど凪緒と出会って、少しずつ変わって……――初めてですよ。会社以外のことに、興味を引かれて自分から手を伸ばしたのは」
ふっ、と笑った俺を見て、お父さんも同じように笑った。
「婚約式で見た君は、随分うそくさい笑みを浮かべていたが……人は変わるもんだな」
「え」
バレてたか……。
バツの悪そうな顔を浮かべる俺に、お父さんは頭を横に振った。
「責めてるのではない。人生ってのは、そんなものだ。
変化の連続があって、初めて自分に合った〝心地よい場所〟を見つけることができる。今の響希くんが、その証だろう。
凪緒は響希くんにとって、大きな変化になれたんだな」
「……それは、もう」
毎日、毎日、顔を合わせる度に俺と仲良くなろうとする変な奴。
やることなすこと無茶苦茶な上、貧弱だから、すぐに危ない目に遭う。
そんな子、今まで会ったことない。こんなに俺の心をかき乱し、こじ開けた子は、凪緒以外にいなかった。