クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「その気があるならさ、ここじゃなくて違う所に行かない?」
「どうして? 今すぐでも、俺は構わないのに」
「ふふ、せっかち」
すると時山先輩は、俺の耳元で内緒話をする。「二人で楽しいことしよっか」と。
「私と一緒になれて嬉しいでしょ? 城ケ崎くんは、ずっと私のことが好きだったものね。そうだ、彩音(いろね)って呼んでもいいわよ」
「彩音、素敵な名前だ。由来を聞いても?」
「えぇ、もちろんよ。確か〝音を彩(いろど)る〟だったかしら。
私の発言(音)に皆が影響されますように、っていう揶揄らしいわ。女社長になること前提でつけられた名前よ、ふふ」
気分を良くした先輩が、俺に抱き着く。
そして互いの顔が至近距離まで迫った、その瞬間。
「音を彩る、ね。どうりで――
うるさいはずだ」
「……え?」
妙に甘ったるい声を出されて。
聞きたくない声で、勝手に名前を呼ばれて。
自分第一のご都合主義、いつになったら終わるのさ。