クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「先輩の声が心地いい? 違うよ。先輩の声は、ただの耳障りだ。
俺の心に響くのは、凪のような静けさなんですよ」
「凪? そんな面白味のないものの、どこがいいの?」
「〝凪〟でいいんだよ。ただ一緒にいてくれれば、それだけでいいんだ」
「!」
俺の言葉が誰をさし、何を意味しているか――時山先輩は分かったらしい。
すぐさま俺から離れ、顔を歪めた。
「そうね。〝あの子〟も今、きっと静かになってるわ。いや、声が出せない状況にあるって言った方が正しいかしら」
「……」
「……焦らないの?」
慌てる俺を見られず、悔しそうに眉間にシワを寄せる先輩。その眼前に、あるものをぶら下げる。
「こ、れは……私のスマホ? どうして城ケ崎くんが持ってるの⁉」
「さっき抱き着かれた時に、ポケットから拝借しました。それで先輩のマネごとをしたのですが……慣れないことはするものじゃないですね。
裏解析、骨が折れました」
「裏、解析……?」
「お得意でしょう?」
ふっ、と笑うと、先輩のスマホにニュース速報が流れる。どうやら、関係各所にリーク資料が届いたらしい。
絶望的な見出しを見て、時山先輩は顔を青くした。