クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
『いやいや、そーはならないでしょ!!』
さすがに我慢の限界がきて、強く机を叩いてしまう。
お行儀悪いのは分かってる。
でも、だって!
今の電話って……エッチぃ事の約束でしょ⁉
すると叩いた振動で、先輩が読んでいたタブレットが僅かに揺れた。
視界がブレて、読んでいた所を見失ったのか「ちょっと」と。動物さえ怯みそうな目で睨まれる。
『邪魔しないでくれる? 腹立つんだけど』
『コッチのセリフですよ。目の前に婚約者がいるのに、どうして女性と密会する約束をするんですか!』
信じられない、信じられない!
怒りなんて、とうにピークを超えてる。こんな事をされて黙っていられるほど、私も人間できてない!
だけど沸騰する私とは反対に、氷点下のオーラを放つ先輩。「はぁ」と吐く息が、六月だと言うのに白く見える。
『アンタの前で約束してるんだから〝密会〟じゃない。アンタがいる事だって、向こうに忠告したし』