クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「俺は先に出るから」
先輩は玄関で制服のネクタイをしめ、カードキーとスマホを持つ。
え……、本当に登校しようとしてる?
先輩。
私、さっき結構がんばったんですよ?
心から婚約したいとか、そんな恥ずかしいこと言ったんですよ?
その答えが「アンタ変」だけじゃ、あの時の私が浮かばれません。
他になにか言って下さい――!
その念が通じたのか。
ドアを開けた先輩が、立ち止まって私を見た。
もしかして「俺もアンタと本音でぶつかってみるよ」とか、「心から婚約者になれたらいいよね」とか言ってくれるの?
……なーんて。
そんな事は、もちろんなかった。
「いつまで図太い神経が続くのか、楽しみだ」
バタンッ
「…………やっぱ、クズ男」
触れ合う距離まで近づけたと思ったら、それはお遊びで。
必死で本心を打ち明けたら、暇つぶしの一部にされた。
「やっと本音を言えたのに、前よりも虚しいなんて……」