クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
キュッ、ジャー
「……ふぅ」
ハンカチを濡らし、目の上に置く。
お化粧ポーチ、持ってきてたっけ。なかったら芹ちゃんに貸してもらおう。
「……さっきの時山先輩の言葉を聞いたら、先輩は何て思うかな」
時山先輩の言う通り、城ケ崎先輩は時山先輩のことが好きだ。その「好き」は純粋なもの。
反対に、時山先輩も城ケ崎先輩のことが好きだ。だけど、その「好き」はまがい物。
城ケ崎先輩の〝権力〟を、時山先輩は欲している。
「先輩、かわいそう……」
好きな人に、自分自身を見てもらえない辛さはよく知ってる。
自分を見てくれないのに一緒にいなきゃいけない苦痛も、よく分かる。
「私と同じ思い……先輩にはしてほしくないな」
だから何としてでも、時山先輩の本音を、城ケ崎先輩に知られちゃいけない。
二人の本音を知ってる私が、何としても先輩を守るんだ!
――と、思っていたのに。
「誰がかわいそうだって?」
「ひゃあ⁉」
目の上に置いたハンカチを取る。
暗闇だった世界に、鋭い光が一気に差し込んだ。
そして、その光の中央にいる人物。
それは――