クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「私〝バカ〟なので……。
さっきのキス、忘れてしまいました」


だからもう一回――なんて。
とぼける私に、先輩はため息で返す。


「朝は〝キスしないで〟とか言っておいて」


――二度と、私にキスしようと思わないでください


「アンタ勝手すぎ」

「す、すみません……」


でも朝の先輩は、私を何とも思ってなかったでしょ? 気持ちのないキスはしたくなかったの。

だけど今ってさ。
きっと朝とは違うと思うから。


「先輩、少しは私のこと好きになりました?」

「全然。むしろ…………」


それきり先輩は黙る。

すると夜風が通り過ぎ、先輩の薄茶色の髪がひらりと舞った。

その姿が、先輩の心の揺れを表わしてるようで……「先輩、私になびいて?」と。思わず期待を込める。


「むしろ……、なんですか?」
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