クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です
「笹岡、どうしたの?」
「……んー、いや? なんでもねぇ」
一度ゆっくり目を伏せた後。
笹岡の顔には、いつも教室で見る爽やかな笑顔が浮かんでいた。
「よしOK! さすがに服まで乾かしてやれねーから、さっさとお家に帰れよ」
「え、服?」
視線を下げると、白のワンピースに広がるイチゴの色。血かと思って、一瞬ギョッとしちゃった。
「これは……、警察に職質される前に帰らなきゃね」
「……」
ジュースがかかった服が、ひんやりして気持ちいい。
六月と言っても、外にいると汗が流れるくらい暑い。朝の九時でも、もうお昼並みの気温だ。
その暑さにやられてか、なんなのか。
次に笹岡が言ったことは……
「ウチ……来る?」
「へ?」
黒い前髪の隙間から、真剣な瞳と目が合う。
私たちの間に蜃気楼が生まれたのかと錯覚するほど、笹岡の瞳がゆらりと揺れた。