ぴか★すき

―――…――

その日の午後、私は、編集社にいた。
最近マンガが描けていない私を見かねて、佐々木さんに呼び出されていたのだ。

佐々木さんに急かされ、なんとか編集社に着いてから仕上げた原稿を、佐々木さんがチェックする。


…でも、前みたいに、
佐々木さんは顔を赤らめてコメントしたり、しない。




「…うん、じゃあ完成ってことで。出版社に出しておくから。

…でも、梨柚ちゃん……
なんかあったの?」


佐々木さんに顔をのぞきこまれながらそう言われ、私は思わず顔をそらす。
気付かれたく、ない。



「…なんだか、人物みんなが、悲しい顔してるよ。
どきどきしてるシーンなのに、切ないよ。

切ないマンガも、あたしは好きだけどさ。
梨柚ちゃんのマンガは、読む人をどきどきさせるものでしょ…?」




——…そうだよ、佐々木さん。
私は、人をどきどきさせなきゃいけないんだ。
…なのにね、私、どきどきしちゃったの。
マンガのヒロインが誰かにどきどきしてる時みたいに。
…いや、それ以上に。


マンガのヒロインは、私がどきどきするシーンをつくっていることを知らずに恋をしてゆく。
けど、私は違うの。
誰が私をどきどきさせるか、知ってるの。


でも私は、だめなんだよ。
マンガの主人公には、なれないんだよ。


——だって、怖いの。
中2のあの時と、同じだから——


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